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信定克幸(助教授) 分子研リポート2006 | 分子科学研究所

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Academic year: 2018

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114 研究系及び研究施設の現状

信 定 克 幸(助教授) (2004 年 6 月 1 日着任)

A -1) 専門領域:分子物理学、反応動力学

A -2) 研究課題:

a) 非平衡・非定常状態下における分子の量子多体系ダイナミクス b) 有機分子で保護された金属クラスターの電子物性

A -3) 研究活動の概略と主な成果

a) 実在する分子系は通常,有限温度において周りの環境と相互作用していることが多く,必然的に分子系と周りの環 境との間では熱的エネルギーの出入り(熱的揺らぎ)や電子のやり取り(電子数の揺らぎ)が起こり得る。我々の グループでは特に電子数の揺らぎを持つ分子,すなわち電子溜めと相互作用している分子系において引き起こされ る量子多体系ダイナミクスの理論的解明を目標として研究を進めている。振動エネルギーや回転エネルギーの緩和 過程に関しては多くの優れた研究例があるが,電子エネルギーの散逸に関する研究は,理論的にも実験的にもあま り行われていないのが現状である。例えば多電子系の場合,電子相関や可干渉性等の量子多体系特有の問題が露 骨に現れること,また一般的に電子が関わる現象は非常に短い時間スケールで起こることが,散逸を含む多電子系 ダイナミクスの研究を難しくしている大きな要因である。この研究課題には電子的揺らぎを取り込む問題と量子多 体系ダイナミクスを記述する問題の2つが存在する。そこで我々は,各々の問題点に焦点を絞った課題を設定し研 究を進めている。電子的揺らぎの研究においては,表面吸着分子系や電極反応を電子レベルで記述するための非平 衡定常状態理論の開発とその方法論の適用を行っている。最近,表面吸着原子系を記述するための新しい方法論 を開発した。この方法論では表面吸着原子系を有限サイズのクラスターで近似しているが,クラスターの端におい て適切な境界条件を課すことで半無限系であるはずの表面を正しく記述することに成功した。一方,量子多体系ダ イナミクスの研究においては,レーザーパルス光により引き起こされる電子ダイナミクスの詳細な解明を時間依存 密度汎関数理論に基づいて行った。最近の成果としては,リング状分子に円偏光レーザーパルスを照射することに より,効率的にリング内に電流を誘起し,同時に磁気モーメントを発生できることを示した。

b) 複数の有機分子で保護(又は修飾)された金属クラスターは,裸の金属クラスターとは異なる化学的・物理的性質

(例えば,線形・非線形光学応答,伝導性,磁性,触媒作用,化学反応性など)を示すことから基礎理学・応用科 学両方の観点から盛んに研究されている。本研究では,チオラート分子によって保護された様々な金クラスターを 対象として,その電子構造と光学的性質の解明を行った。特筆すべき成果としては,従来チオラート分子は金クラ スターの表面を覆うような形で結合すると思われてきたが,我々の研究によると金原子と硫黄原子が1対1で結合 した強固なAu–S ネットワークを形成し,このネットワーク構造が金チオラートクラスターの安定化の大きな要因 であることを明らかにしたことである。

B -4) 招待講演

信定克幸 , 「分子科学における量子多体系ダイナミクス」, 第13回理論化学シンポジウム, 神奈川, 2006年 9月.

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研究系及び研究施設の現状 115 B -7) 学会および社会的活動

学協会役員、委員

日本物理学会領域1(原子・分子分野)世話人 (2003-2004). 科学技術振興機構地域振興事業評価委員会専門委員 (2005-2006). 学会の組織委員

分子構造総合討論会プログラム委員 (2001). 日韓共同シンポジウム実行委員 (2005). 総研大アジア冬の学校実行委員 (2005-2006).

B -8) 他大学での講義、客員

産業技術総合研究所客員研究員, 2003年 8月-2005年 3月.

筑波大学計算科学研究センター共同研究員, 2004年 8月-2006年 3月. 筑波大学計算科学研究センター共同研究員, 2006年 6月- .

B -10)外部獲得資金

奨励研究 (A ), 「ヘムタンパク質に結合した一酸化炭素分子の振動エネルギー緩和の動力学」, 信定克幸 (2000 年 -2002 年 ). 基盤研究 (C ), 「ナノメートルサイズの分子における多電子ダイナミクスの理論的研究」, 信定克幸 (2005年 - ).

特定領域研究 , 「エネルギー散逸を伴う電子ダイナミックスの理論と材料物性」, 信定克幸 (2006年 - ).

岩崎ファンド海外研究助成 , 「D Y NA M 2000 R E A C T IV E A ND NON R E A C T IV E QU A NT U M D Y NA MIC S」, 信定克幸 (2000 年 ).

第1回理学未来潮流グラント, 「有限少数多体系における特異な現象の発見とその解釈」, 信定克幸 (2001年 -2002 年 ). 松尾学術研究助成金 , 「貴金属クラスターの電子・イオンダイナミクスの理論的研究」, 信定克幸 (2002 年 -2004年 ).

C ) 研究活動の課題と展望

これまでの分子科学におけるダイナミクスの研究では,多原子系のダイナミクスが主たる研究テーマであったが,最近の実験 の目覚しい進歩により,数フェムト秒からアト秒に至る超高速の多電子ダイナミクスの実時間観測が可能になってきた。しかし ながら,多電子ダイナミクスの基礎理学的理解は全く十分ではなく,ましてや多電子ダイナミクスが今後,分子科学一般や応 用科学へどのように展開していくのかについて明確な答えを出すことは現状では難しい。そこで我々の研究グループでは,基 礎理学的理解を目標として,理論解析・数値解析両方の観点から,多電子ダイナミクスの研究を行っている。これまでのとこ ろ,孤立系分子を対象として多電子ダイナミクスの研究を行ってきたが,最近,周りの環境と相互作用している分子系,特に 電子エネルギーの量子散逸を含む系の多電子ダイナミクスの理論的研究にも着手した。例えば,表面吸着分子や溶媒と相互 作用している分子,ヘテロな分子を多数含む大きな金属クラスターなどの系において,多電子がどのような振る舞いをするのか, 特に超高速の多電子ダイナミクス(非線形光学応答や電荷移行反応)の過程に注目して研究を進めたいと考えている。また, 現在進めている研究を電子ダイナミクスだけに限定せず,スピンダイナミクスや励起子ダイナミクスも含め,分子系における 量子多体系ダイナミクスの実時間解析へと展開する予定である。

参照

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